2021年没、クロフネの衝撃を振り返る

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2021年1月17日、一頭のレジェンドホースの訃報が届いた。
そのレジェンドホースの名はクロフネ。

 

「G1を2勝」

 

と、種牡馬の中では一見地味にも見える戦績。
しかしそのクロフネが現役時代に競馬ファンに与えた衝撃は、決して戦績だけでは語れない。

 

クロフネが駆け抜けた競走馬人生を振り返ることで弔いとしたいと思う。

 

米国から日本へ

 

2000年に米国から日本にやってきた芦毛の馬。
2001年から日本ダービーに外国産馬の出走が解放されることを受け

 

「開放初年度のダービーを勝ってほしい」

 

という願いを込め、彼に付けられた名前は

 

「クロフネ」

 

デビュー戦こそ後に重賞でも活躍するエイシンスペンサーの2着に敗れるが、2戦目をレコードタイムで勝利。
その次走、エリカ賞もレコードタイムで圧勝。

 

500キロを超える雄大な芦毛の馬体から繰り出される大きなストライドは目を引くものがあった。
連勝で臨んだラジオたんぱ杯3歳ステークスは後に

 

「伝説の一戦」

 

と呼ばれる対決となった。
クロフネは圧倒的な存在感で連勝してきた過程から単勝1.4倍の1番人気に推された。

 

2番人気はその年のダービー馬アグネスフライトの弟で新馬戦を圧勝してきたアグネスタキオン。
3番人気は札幌3歳ステークスを快勝して臨んできたジャングルポケット。

 

クロフネ陣営は勝てると踏んでいたようだが、結果的にはアグネスタキオン、ジャングルポケットに先着を許し3着に敗れる。
勝利したアグネスタキオンのタイムは、先日クロフネが記録したばかりのレコードタイムを破っていた。

 

このレースは後に

 

「幻の三冠馬」

 

と呼ばれることになるアグネスタキオン、この世代のダービーを含めたG1を2勝することになるジャングルポケット、そしてクロフネが直接対決をした唯一のレースとして後世まで語り継がれることになった。

 

 

G1初勝利

 

年が明けG3毎日杯を5馬身差で圧勝すると、G1レースのNHKマイルカップに次走の照準を定めた。
当時、外国産馬がダービーで出走する権利を得るには、京都新聞杯または青葉賞を勝利するかNHKマイルカップで2着以内に入る必要があった。

 

陣営はダービーでアグネスタキオンとの再戦をするにあたり、G1タイトルを持って臨みたいという思惑があったようだ。
当時フランス滞在中だった武豊騎手が帰国し騎乗するという万全の体制。

 

しかしNHKマイルカップを前にして、皐月賞を制覇したアグネスタキオンが屈腱炎を発症し戦線を離脱。
クロフネとアグネスタキオンの再戦が実現されることは無かった。

 

迎えたNHKマイルカップでは武豊騎手を背に、これまでとは一転して後方待機策。
逃げ粘るグラスエイコウオーを大きなストライドで一歩一歩追い詰め、半馬身差で差し切った。

 

その直線でのゴボウ抜きは着差以上のインパクトがあった。
そしていよいよ迎えたダービー。

 

そこにはアグネスタキオンの姿はなかったが、ラジオたんぱ杯3歳ステークスで先着を許したジャングルポケットが1番人気として君臨。
クロフネは2番人気だった。

 

NHKマイルカップ同様、後方待機策から末脚に賭けるが、伸びを欠いて5着。
勝ったのは後方から一気の脚を見せたジャングルポケット。

 

クロフネにとっては目標としていたレースでライバルに敗れる悔しい敗戦となった。
夏の休養を経て迎えた秋シーズン。

 

クロフネはこの年から外国産馬の出走枠が設けられた天皇賞秋に目標を定めた。
復帰戦となった神戸新聞杯では札幌記念でジャングルポケットを破ったエアエミネムに先着を許し3着に敗れるも、天皇賞秋に向かう計画は変わらず。

 

しかし獲得賞金額で上回るメイショウドトウとアグネスデジタルが出走することになり、クロフネは出走権を失った。
この時、翌年にダートG1のフェブラリーステークスへの出走プランがあったことから、天皇賞秋前日に行われるダートG3の武蔵野ステークスへの出走が決まる。

 

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ダート戦へ

 

この機会にダートを走らせてみようという思惑のもので、初ダートとなる今回は陣営も

 

「半信半疑だった」

 

というコメントを残している。
この武蔵野ステークスで、クロフネは約20年の時間が経過した今でも語り継がれるような、衝撃的なレースで競馬ファンを驚かせることとなる。

 

レースではもちろん1番人気だったが、連勝中だったエンゲルグレーゼと2倍台を分け合うオッズで、馬券を購入するファンとしてもクロフネの初ダートに

 

「半信半疑」

 

だった模様。
この武蔵野ステークス、今見直してみるとかなりの好メンバー。

 

後に重賞を3勝するスターリングローズを始め、前年のNHKマイルカップの覇者で翌年のジャパンカップダートを制することになるイーグルカフェ。

 

G1でも好走を繰り返し、ドバイワールドカップにも遠征することになるリージェントブラフや、ダート短距離の雄サウスヴィグラスなどの豪華メンバーとの対決であった。
それでは伝説となった武蔵野ステークスを振り返る。

 

レースでは好スタートから好位置を追走。
3コーナーを前にして早くも逃げるサウスヴィグラスとの差を詰める。

 

「仕掛けが早すぎないか?」

 

レースを観戦していたファンの多くがそう思ったことだろう。
4コーナーでサウスヴィグラスを捕まえる。

 

そこからは後続を突き放す一方。
直線を悠々と駆け抜けるクロフネの姿は、どこか楽しそうに見えたのを覚えている。

 

伸び伸びと自慢のストライドを伸ばし、最後は武豊騎手の手も動いていなかった。
後に翌年のジャパンカップダートを制するイーグルカフェに9馬身差をつける圧勝。

 

走破タイムは1992年にナリタハヤブサが記録したレコードを1.2秒更新するJRAレコード。
日本競馬界に衝撃が走った。

 

歴代最強ダートホースが誕生した瞬間だった。
鞍上の武豊騎手も

 

「次元が違う」

 

というコメントを残している。

 

そして伝説は続く

 

武蔵野ステークスの次走、クロフネは当時東京ダート2100mでの開催だったジャパンカップダートに出走。
この年のジャパンカップダートには、ダート大国のアメリカから一線級の馬であったリドパレスが参戦を表明。

 

クロフネとの対決に日本の競馬ファンの胸が躍った。
レース当日、1番人気はもちろんクロフネだった。

 

単勝1.7倍と圧倒的な支持。
2番人気はリドパレス。

 

「どっちが強いのか?」

 

クロフネはそんなファンの疑問に衝撃の結末で回答をもたらすこととなった。
レースがスタートした直後、クロフネは隣のゲートの馬と接触。

 

その影響で後方からの競馬となってしまった。
対するリドパレスは好スタートから中団につける。

 

ここから見たこともない、いや今後も恐らく見ることがないであろう衝撃の走りをクロフネが見せつける。
2コーナーで馬群の外に出すと、早くも進出を開始。

 

2コーナーでは10番手あたりにいたクロフネだが、3コーナーに入る時にはリドパレスをも楽々とかわして3番手まで進出。

 

「仕掛けが早すぎないか?」

 

という心配の声が日本の競馬ファンから発せられることはもうない。
我々はすでにクロフネの強さを知っている。

 

4コーナーで先頭に躍り出る。
武豊騎手の手はまだ動いていない。

 

そこから軽く促されると後は後続を突き放す一方。
終わってみれば前年のジャパンカップダートを快勝しているウイングアローに7馬身差、1.1秒差をつける圧勝。

 

ライバル視されていたリドパレスは実力を発揮できず8着に終わった。
多くのレジェンドホースに騎乗してきた武豊騎手をもってして

 

「こんなに強い馬は今までいなかった」

 

とのコメント。

 

ドバイワールドカップへ

 

衝撃のジャパンカップダートの後、翌年のドバイワールドカップを目標とすることを明言。

 

筆者は当時中学生であったが

 

「日本の馬が世界最強馬決定戦で圧勝する」

 

と信じてやまなかった。
翌日のジャパンカップでクロフネのライバル、ジャングルポケットがテイエムオペラオーを破る快挙。

 

この年の3歳世代のレベルの高さを証明する結果だった。
そして12月。

 

世紀末覇者と呼ばれたテイエムオペラオーが5着に敗れた有馬記念を最後に引退。
この有馬記念を勝ったのも3歳馬のマンハッタンカフェであった。

 

翌年からの新たな勢力図を予想し、興奮していたことを今でも覚えている。
もちろん翌年の一番の楽しみはクロフネのドバイワールドカップ参戦。

 

ところが筆者の期待は間もなく打ち砕かれることになる。
今でも覚えている。その年のクリスマスだった。

 

「クロフネ屈腱炎発症」

 

とスポーツ紙各紙が報道。
あの時の絶望感は一生忘れられないだろう。

 

報道翌日に引退し種牡馬入りすることが発表された。
伝説の幕引きは突然訪れた。

 

あの日の伝説から

 

 

夢半ばで引退となったクロフネだが、その産駒は大活躍。
G1馬も多く輩出した。

 

2020年に種牡馬を引退。
そして2021年1月17日、老衰のため死亡。

 

後に無敗の三冠を達成するディープインパクト。
凱旋門賞で2度2着となったオルフェーヴルなど、その戦績でクロフネ以上のインパクトを残した馬は多い。

 

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ただ筆者はどうしても

 

「あの時」

 

の衝撃が忘れられない。
世界一の強さを確信したジャパンカップダート。

 

屈腱炎発症の報道を見た時の絶望感。
これも競馬というスポーツの中でのエンターテイメント性の一つに過ぎないなのかもしれないが、ずっと後世に伝えていきたい物語。

 

ありがとう、クロフネ。
血統表の中に、あなたの名前を見つけるたびに思い出すよ。

 

その血を紡いだその先に、あなたを超える衝撃と出会えることを祈り、弔いの言葉とします。
この記事がクロフネの衝撃を知らない若い世代に届くことを願います。

 

ご購読ありがとうございました。

 

今回のお話「2021年没、クロフネの衝撃を振り返る」の続き記事へ

 

 

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